SinChro™シンクロ
TL Genomicsでは、PCRベースの新しい染色体検査技術を開発することに成功しました。SinChro™(シンクロ)と名付けたこの技術は、染色体の検査現場で日常的に使われているFISH法(Fluorescent In Situ Hybridization)に比べて、簡便でスループット性に優れ、高感度というアドバンテージがあります。
SinChro™:簡便でスループット性に優れたPCRベースの染色体検査技術
染色体の検査で日常的に用いられるFISH法は、試料をスライドグラスに固定する作業からスタートします。その後、オーバーナイトで試料と蛍光プローブとハイブリダイズさせ、Wash液に何度もつけて洗浄し、蛍光顕微鏡でシグナルを観察します。自動化されているステップはあるものの、検査全体では非常に手間がかかるため、検査現場ではより簡便でスループット性に優れた技術が求められてきました。
SinChro™法は、上記の課題を解決する画期的な技術です。定量PCR法のような分子生物学的手法で、一つ一つの細胞が持つ染色体の本数を1本や2本とカウントすることは非常に困難ですが、SinChro™法はその課題を克服し、染色体を1本単位で正確に計測できます。例えば、骨髄異形成症候群という病気では、5番染色体や7番染色体の欠損は予後不良の因子として知られていますが、SinChro™法は、そのような染色体の数的異常を正確に検出することができます。
微少空間における複数分子の鋳型DNAを正確に計測する
SinChro™法では、微小区画の中でPCR反応を行います。これは、一般的な条件のPCRに比べて10,000倍以上小さな空間です。このため、反応効率が格段に良く、1分子のDNAでも確実に増幅させることができます。しかしながら、反応効率が良い反面、鋳型となるDNAの数に関する情報はPCR反応終了時点では失われてしまいます。
SinChro™法は、この微小区画に複数個のDNAが存在する場合に、その数を微小空間ごとに正確に計測できる技術で、TL Genomics独自の発明※1で鋳型DNAの数を蛍光強度の差に変換して計測しています。
※1特許申請済:特願2020-216149
SinChro™:新たな検査技術としての可能性
TL Genomicsでは、SinChro™の開発パイプラインの一つとして、骨髄異形成症候群(myelodysplastic syndromes:MDS)の染色体異常を検出する新たな体外診断用医薬品の開発に取り組んでいます。骨髄異形成症候群という病気では、いくつかの染色体の数的異常が観察され、その検査結果は治療方針を決めるうえで重要な情報となります。
また、SinChro™を使って血液細胞中の性染色体の後天的な喪失を調べることで、生物年齢を推定できる新たなヘルスケアサービスを提供しています。
マイクロ流路デバイスMicrofluidics Devices
TL Genomicsのマイクロ流路デバイスは、多層構造という特徴を持っています。一般的なマイクロ流路デバイスは単層(1層)ですが、私たちのマイクロ流路デバイスは多層に積層されており、背圧が低減され高速での送液が可能になり、また大型化されているため試料の処理量が格段に増えるというアドバンテージがあります。さらに、目詰まり防止技術の発明に成功し、血液試料を長時間連続で送液することを可能にしました。
画期的な積層構造と目詰まり防止技術
TL Genomicsのマイクロ流路デバイスは、水力学的ろ過の原理を採用して細胞を分離しています。この原理の利点は、その他の流体力学を応用した無標識細胞分離法に比べて、圧倒的に分離性能が高いことが挙げられます。
TL Genomicsでは、多孔質素材に血液の目詰まり成分を吸着させる「目詰まり防止技術」を発明しました。マイクロ流路デバイスに血液試料を流すと、微細流路の内部で血液成分が目詰まりを起こすことが知られており、これまでは血液試料をマイクロ流路で分離するには密度勾配遠心分離などの何らかの前処理が必須と考えられてきました。私たちの技術で、その大きな課題を解決することができました。
このマイクロ流路デバイスはオートクレーブ滅菌が可能で、分画操作は無菌的に行うことができ、得られた細胞はその後長期にわたり培養することができます。マイクロ流路デバイスで分離したリンパ球は、従来の密度勾配遠心で得られたPBMCと異なり、血小板やデブリの混入が無いことも特徴の一つです。
短時間で腫瘍組織から、腫瘍浸潤リンパ球TILや腫瘍細胞などを分離する
このマイクロ流路デバイスは、組織に由来する細胞の回収にも優れた性能を発揮します。
酵素処理などを経て得られた組織由来細胞群は、細胞デブリや結合組織の破片を含んでいます。マイクロ流路デバイスを用いて、サイズ分画によってそれら不要な成分が除去すると、精製された細胞はその後の細胞アッセイで高い感度を示します。無標識で行う細胞の回収は、例えば現在注目されている腫瘍浸潤リンパ球(TIL: Tumor Infiltrating Lymphocytes)に適しています。また、腫瘍組織からマイクロ流路デバイスによって腫瘍細胞を簡易精製すると、その後のスフェロイド培養の効率が上昇します。これは、腫瘍細胞の増殖に抑制的に作用する成分やTILが分離されるためと考えられます。
がん患者から生検で得られた腫瘍組織から、スフェロイド培養を経て患者それぞれに合った抗がん剤感受性試験を行うことで、がん治療は格段に進歩すると考えられています。マイクロ流路デバイスは、そのような個別化医療の実現に向けて大きな可能性があります。