Microfluidics Devicesマイクロ流路デバイス
大容量の血液処理を実現
私たちのマイクロ流路デバイスは、水力学的ろ過の原理を採用しています。この原理の利点は、DLDやDean Flowといった流体力学を応用したその他の無標識分離法に比べて、圧倒的に再現性が高いことが挙げられます。
従来、マイクロ流路デバイスに血液試料を流すことは非常に困難とされてきました。微細流路の内部で血液成分が目詰まりを起こすためです。私たちは、多孔質素材に血液の目詰まり成分を吸着させることで、その大きな課題を解決しました。また、多段積層化により、より多くの血液細胞を短時間に処理することが出るようになりました。


微量サンプルに対する
高い再現性と堅牢性
微量サンプルに対する高い再現性と堅牢性
このマイクロ流路デバイスは、組織に由来する細胞の回収や、微量なマウス/ラットの末梢血からの血球の回収にも優れた性能を発揮します。
酵素処理などを経て得られた組織由来細胞群は、細胞デブリや結合組織の破片を含んでいます。マイクロ流路デバイスを用いたサイズ分画により、それら不要な成分を除去したピュアな細胞は、その後の細胞アッセイに高い感度を示します。無標識で行う細胞の回収は、例えば腫瘍浸潤リンパ球(TIL: Tumor Infiltrating Lymphocytes)の研究分野で注目を浴びています。
このマイクロ流路デバイスはオートクレーブ滅菌が可能で、操作は無菌的に行うことができ、得られた細胞をその後長期にわたり培養することも可能です。
<実施例1>
血中循環腫瘍細胞(CTC)を模したスパイク実験
CTCを模倣した細胞としてHepG2細胞を用いて回収する実験を行いました。
あらかじめHoechst33342で核を染色したHepG2細胞を限界希釈法で数個単位に分注し、蛍光顕微鏡下でカウントします。この実験では、4個のHepG2細胞を全血2mLにスパイクして、マイクロ流路デバイスで処理した後回収しました。マイクロ流路デバイスの送液時間はわずか10分以内です。
全てのHepG2細胞はOutlet3に回収され、約100,000倍の効率で濃縮できることが明らかになりました。

マイクロ流路デバイスの
メカニズム・性能
マイクロ流路デバイスのメカニズム・性能
私たちのマイクロ流路デバイスは、主流路に対し直角方向に100本以上の側路が設置されています。マイクロメートル単位の側路の本数と間隔を最適化することで、目的に応じた大きさの粒子や細胞を分離することができます。図の例では、120本の側路に対し2つのOutlet回収口(Outet1、Outlet2)とフロースルー(Outlet3)の回収口が設置されています。
蛍光標識された6㎛、8㎛、10㎛、15㎛の大きさのビーズをマイクロ流路デバイスで処理したところ、非常に高い分離性能を実現できました。


DimShift™
DimShift™のメカニズム・性能
DimShift™は、シングルセル・デジタルPCRの技術を使っています。それぞれの細胞をひとつひとつ微小な区画(ナノリットルサイズ)に封じ込め、その区画内で細胞からのDNA抽出とDNA増幅を行い、独自の手法を用いてターゲット遺伝子のコピー数を蛍光強度に変換し、区画ごとに解析を行います。これによって、それぞれの細胞のターゲット遺伝子のコピー数を測定できます。一度に数万個以上の細胞を測定し、10万個中数十個しか存在しないコピー数異常細胞を検出できます(<0.1%の感度)。
測定に要する時間はわずか4時間です。

図:DimShiftの結果(正常核型の細胞に、0.1%程度の割合で13番染色体の長腕が1本欠損している細胞を混合したサンプルの測定)

オンコロジーへの挑戦
私たちは、DimShift™技術を治療後のがんの微小残存病変(MRD)の検出に応用し、新たな医療技術の創出に取り組んでいます。
がんを形成する腫瘍細胞は、すべて、何らかのDNA異常をもっています。それらのDNA異常は、一塩基変異、欠失、増幅、など様々です。私たちは、欠失と増幅(コピー数異常)に着目しています。主要な固形腫瘍や血液腫瘍では、欠失や増幅は高頻度に起こっています。例えば、染色体13番の欠損は多発性骨髄腫(MM: Multiple Myeloma)のおよそ50%、慢性リンパ性白血病(CLL: Chronic Lymphocytic Leukemia)のおよそ80%において起こっています。大腸がんでは染色体18番の長腕の欠損がおよそ50%の症例で報告されています。文献1,文献2
これらを測定するには、FISHやG-bandingなどといった細胞遺伝学的解析、又はPCRやNGSといった分子生物学的解析を使うことができますが、解析細胞数が限られていることや正常DNAによる希釈の問題で、その感度は数%*1が限界でした。
私たちは、DimShift™によりその問題を、100倍程度感度を高めることで解決しました。
これにより、治療後に体内に存在する微小残存病変(MRD)の検出が可能となり、治療の継続・変更・中断等に役立てられる可能性があります。*2
文献1 日本内科学会雑誌第100巻第7号・平成23年7月10日
文献2 BMC Cancer 2007, 7:226
*1 PCRやNGSは、解析細胞集団から抽出されたDNAを対象に、細胞集団のターゲットのコピー数の平均値解析を行うため、集団における正常細胞の割合が多くなると、測定値(平均値)が正常と変わらなくなり、異常細胞が存在したかどうか見分けがつかなくなる
*2 DimShift™関連製品はResearch Use Onlyであり、臨床診断用には用いることができません
細胞治療やバイオ医薬品への貢献
DimShift™は、遺伝子治療用細胞等の作製・品質管理及び投与後の評価に役立てられる可能性があります。特に近年、CAR-T療法を始めとして、細胞治療用製品によるがん治療への貢献が進んでいます。私たちは、より安全に、そしてより効果の高い治療を提供するため、細胞に導入されたCAR遺伝子等の外来遺伝子コピー数を、DimShift™を使って精密に計数することに取り組んでいます。
また、抗体医薬品などのバイオ医薬品の製造において、組換え遺伝子を増幅させた産生細胞(例:CHO細胞)のcell line developmentや品質管理への応用にも取り組んでいます。

DimScat™
DimScat™ Prenatal の出生前検査への貢献
出生前に胎児の遺伝的健康状態を調べる検査のうち、染色体異常の確定的な検査は、羊水検査*1又は絨毛検査*2として行われます。従来から、羊水検査は、羊水中の胎児細胞を培養して増やし、G-banding法*3で核型分析が行われてきました。また、最近では、マイクロアレイ法*4やQF-PCR法*5といったより詳細あるいはより簡便で迅速に染色体異常を調べる方法もでてきました。 しかし、マイクロアレイ法では測定に多くの時間を要し、検査価格も高いという欠点があり、QF-PCR法では染色体異常種の網羅性が低いという課題が残されています。 私たちは、デジタルPCRを高度にマルチプレックス化したDimScat™によりこれらの課題を解決しました。一般的に検査される染色体13番、18番、21番、性染色体の異数性だけではなく、22q11欠損を含む種々の微小欠損の検出が、わずか4時間で可能となります。 一度に16か所の標的Locusを測定するBasic panelと、別に9個の標的Locusを測定するExtended panelを用意しています。

図)Basic panel:クラスター横の文字は標的の染色体Locus ID(品質を高める為にそれぞれの染色体につき複数のLocusを測定しています)
*1 母体の子宮内の羊水を採取し、染色体に異常があるかどうかを検査する方法です。羊水の中には胎児の細胞が多く含まれ、その羊水を直接検査にかけるので診断の精度が高く、確定的検査とされています。
*2 妊娠早期の胎盤の一部である絨毛を採取・培養し、染色体の形と数を確認する検査です。確定的検査とされています。
*3 サンプル中の細胞を培養し、染色体又は染色体領域の数を測定します。染色体全体又は大きな領域の欠損や増幅は検出できますが、微小な欠損や増幅は検出できません。
*4 DNA分子が付着したチップを使用して、数千の遺伝子のコピー数を同時に検出するためのツールです。より網羅的かつ微小な領域の欠損又は増幅も検出できます。その分、一般的に検査コストが上がります。
*5 DNA中の特異的な繰り返し配列(STR)を数種類同時に増幅して分析することにより、その染色体が異数かどうかを量的に示す方法です。

図)トリソミー21細胞(Detorit532)由来DNAの測定結果